マリオネット、文楽、所作

waatba2006-04-28

今回の旅では、機会があればコンサートやシアターへ足を運ぼう、ということになっていた。例えば、ロンドンでミュージカルが日本では信じられないほど安い価格からチケットが買えたり、パリでは開演直前にキャンセル席を学生(ISIC所持者)に破格で売ってくれたりするように、なんとなく僕のイメージとしてヨーロッパはそういう'芸術'と言われるものにたいして、懐が深い気がするのである。日本の場合、お金があって好きな人達だけと、なんとなく中流以上の裏庭で繰り広げられている音楽や舞台(この場合、劇団がやるお芝居は別の物として扱ってます)になってしまっている気がするが、少なくとも僕が経験した限りでは、興味のある学生は、安いチケットを探して劇場でプロの響宴に耳を傾けることができる。中欧の主要都市を巡る今回の旅では、そういう劇場に出会えると期待したのだ。


オペラ・ガルニエでチケットを開演30分前になんとか購入して、生まれて初めて見たバレエでは、その脇で同じようにしてチケットを購入したと思われる学生風の女の子が、終演後そのバレエの素晴らしさに感激して、ささやかに「ブラボー!」と賛辞の声を送っていたのをよく覚えている。ああ、こうやって若い学生が芸術的なことに関する素養や経験値を高めていくのだな、と思ったこともあった。



さて、前置きが長くなったが、プラハでは毎日コンサートやオペラなどが催されている。今月末には音楽祭も開かれ、スロヴァキアの友人はそこで20〜30年代のジャズを唄うようだ。残念ながら、聞いた限りでは学生用の安いチケットの購入手段は見当たらず、チケットオフィスでちゃんとチケットを買うことになったのだが、いろいろ迷った挙げ句(懐具合も加味して)マリオネットを見ることになった。今年はモーツァルト生誕250年ということで、お題も『Mozart? Mozart!』。言うたらモーツァルトが書いた歌劇『ドン・ジョバンニ』のパロディ。


マリオネットは初めて見るので、ちょっと魅惑的な雰囲気のしっとりした人形劇を期待していたのだが、蓋を開けてみると、とても騒がしいお芝居だった。人形を操る人は6名ほど。人形用の舞台の上に人間用のスペースがあり、そこからぶら下がった人形が動いて劇は進行していく。


騒がしいと書いたのは、オペラの声量の大きい歌がBGMだったというのもあるが、なによりも人形の所作によるものが大きいと思った。喜怒哀楽の感情を表すために人形が身振り手振りで大きく動かされる。手を振り回したり、人形自体を投げたり。見ていて、なんとなく欧米人との会話を思い出す。彼らもまた、大きく身振りを交えて話をすることがあるからだ。


僕には、その身振りのオーバーアクションが冗長に感じられて、文化的な背景よりも、客寄せ的なエンターテイメントを想起してしまった。ただ、お風呂に入っているシーンをシャボン玉を使って表現するのは面白いと思ったし、実際に水が飛んできたりもするのも見ていて飽きない。なんだかアトラクションという感じがする。壁を破って人間が出てきたり、幕間にはモーツァルトのマリオネットがちょこちょこ動いたり。


そして、見ていて自然と頭に浮かんできたのが、文楽人形の所作である。文楽の人形の動作はかなり少なかったと思う。最小限の動きで感情を表していたのではないかと。手を顔にやるだけ(泣いている)・うつむく(悲しい)など、少ない動作で最大限の意味を伝えようとしていたと思う。『ドン・ジョバンニ』がモーツァルト生誕250年を記念してパロって再構成してマリオネットとして演じられているのに対して、文楽の演目は古典的なその時代からあるものが多い。


マリオネットはチェコ伝統芸能であり、もっと洗練されているのかと思っていたが、意外に大衆化されている印象であった。見ている分には面白いかもしれないが、その面白みは些かハリウッド的である。・・・それに比べると日本の文楽の方がよりよく保存されており、レベルが高いのではないかと思った。文楽見たこと無い人は是非見てみて下さい。